研究Front Line

最先端の臨床研究

Endocytoによる大腸腺腫の異型度診断

工藤 豊樹

大腸ポリープ、とりわけ腺腫病変の取り扱いについては、全ての腺腫病変を切除し病理診断へと送る「Resect and Send」が世界的な標準治療として現在広く行われている。10年前より高精度で内視鏡診断し得た微小腺腫病変に対して、治療はするが病理診断は省略するという「Resect and Discard」とうい概念が欧米諸国から提唱され、アメリカ内視鏡学会(ASGE)からも具体的な許容基準条件(PIVI statement)等が提示された。この考え方の背景となっているのが欧米での医療費高騰と深刻な病理医不足であるわけだが、discardによる病理診断コストや労力(ポリープ回収も含めて)を低減することで、年間およそ35~100億円の医療費削減効果が期待出来ると報告されている。しかし、残念ながらこの魅力的な提言も現在まで普及するに至っておらず、その大きな要因が内視鏡診断精度の低さ(特に欧米諸国で)にある。事実、欧米では拡大内視鏡診断がほとんど普及しておらず、実際の内視鏡診断では病理診断に迫るほどの精度が得られないどころか、浸潤癌をdiscardしてしまう危険すらあるというのが現状である。それに対し、本邦では既に拡大内視鏡診断の確立、普及がされており、特にendocyto(EC)は病理診断とほぼ同等の診断精度を有するとも報告されている。つまり1つの病変に対して2回も同じ診断を繰り返している可能性もあり、日本でこそ高精度の内視鏡診断というアドバンテージを用いた「discard strategy」の可能性を追求する責務があるのではないかと考える。

そこで拡大倍率が520倍の性能を持つECを用いることで大腸腺腫の異型度診断に応用する試みとして本研究を開始した。本来、大腸腺腫のEC所見はスリット状腺腔が特徴であるが、中でも低軽度腺腫はスリット状腺腔に正常腺管が混在する所見を有する症例が多く存在することが分かってきた。我々はこの所見をnormal pit(NP)signと呼称し、その診断精度と有用性をアメリカ内視鏡学会誌(GIE)に報告した(Kudo T, et al. Endocytoscopy for the differential diagnosis of colorectal low-grade adenoma: a novel possibility for the "resect and discard" strategy. Gastrointest Endosc 2020;91:676-83.)。

将来的にECにより高精度で低異型度腺腫を診断することが可能となれば、病理診断へ送るべき病変を省略できる「discard strategy」の可能性が一気に広がることも期待できる。本研究に対しては新に科研費を獲得しており、今後さらなる検証に取り組む予定である。

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