研究Front Line

最先端の臨床研究

大腸ESDと予防的な抗生剤投与について

櫻井 達也

大腸粘膜下層剥離術(ESD)では治療後の潰瘍が大きいため予防的に抗生剤が使用されることが多いが、腹膜炎予防のために経験的に使用されているに過ぎない。実際には内視鏡治療後に菌血症がほとんど起きないことが分かっており、高度の筋層損傷や穿孔などの腹膜炎発症のリスクがない場合には予防的抗生剤が意味をなしていない可能性が高い。

当院では予防的抗生剤を使用しておらず、2011年7月から2018年12月までに大腸ESDを行い術中穿孔がなかった1037症例を対象に、術中所見、Post-ESD electrocoagulation syndrome(PEECS)の発症率、術後経過を評価した。PEECSは腹痛に加えて、体温37.6℃以上、WBC10000以上、CRP0.5以上のいずれかを満たすものと定義した。

平均腫瘍径は33.3mm、平均治療時間は70.2分であった。一括切除率は98.9%、筋層損傷率は18.2%であった。遅発性穿孔はなかった。56例(5.4%)にPEECSが発生した。8症例(PEECS群中5人、非PEECS群中3人)で中等度の腹痛や炎症所見を認めたために、術後の抗生剤治療を行ったが、いずれも保存的に対応可能だった。多変量解析の結果、PEECSの独立した危険因子は、筋層損傷、分割切除、肉眼型分類(LST-G)であった。

全ての大腸ESDは予防的な抗生剤なしで、安全に行うことができていた。PEECSは腹膜炎や遅発性穿孔の前段階と考えられており、上述の危険因子陽性の場合に、抗生剤使用が有効である可能性がある。

現在、大腸ESDの予防的抗生剤の評価として、当院を含む多施設共同研究が進行中である。

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